20代で両親を癌で亡くした僕の想い ~心の宿り木を目指して~

僕は21で母を、29で父を共に癌で亡くしました。 僕の経験や想いを書きます。 このブログが一人でも多くの方の心に届いて 心の宿り木のような存在になってくれると嬉しいです。

おでこ

両親を癌で亡くした僕が経験した出来事を書きます。 身近で見た癌発見前の体の異変、癌発見、入院、抗がん剤、告知、看病、別れの時、それぞれの死から感じた事など赤裸々に書きます。 読んでくれる方の何かのきっかけになってくれれば嬉しいです。

必ず今ここに

母が1か月半ぶりに我が家に帰って来た。
しかし冷たくなった状態で。


冷たくなった状態の母が寝ているのは
1階のリビングの隣の和室。


リビングで父と兄が居て
僕はその間ずっと冷たくなった母のそばに居た。


ただただ母のそばに居たかった。
母のそばから離れたくなかった。


いつもなら母が寝ていたら
こんなに部屋を明るくしていない。


もっといえばこの部屋での
母の寝顔を見た事が無い。


渦を巻いた線香から
独特の匂いがする。





今回の腹痛と入院は
母の事を大事にしてこなかった僕に対しての
神様からの警告で


母は大きな病気でなく
また元気な状態で
この家に帰って来て
この部屋で前と同じように
一日の疲れを取るために寝てほしかった。


もはや今この目の前の光景は
僕が望んだ
光景ではない。



【もう本当に全てが終わってしまった】


その喪失感と母に対しての恋しい気持ちが
交差して母の顔を見ているだけで
涙が止まらなかった。


襖の向こうには父と兄が居る。
鼻を摘まみながら隣の部屋に
鳴き声が漏れないようにと
必死に我慢した。



父から
「明後日には母ちゃんは火葬してしまう」
と聞かされていた僕は



何度も何度も
泣きながら母の顔を触った。



あの何とも表現しがたい
また経験した事のない
「冷たさ」「感触」は手だけではなく
心の奥底にまで


もっといえば
今でも忘れられないほど
脳を含めた全身に残っている。


それでも僕は何度も何度も
母に触った。


その「冷たさ」「感触」が
僕の心の奥底まで震わせた


とてつもない恐怖に襲われ
母の顔に数滴、
涙をこぼしてしまった。


僕は母の顔に垂らしてしまった
涙を拭きながら



「何だよ…涙を落としても生き返らないじゃないか…」



もちろんこんなのは空想の世界の話だと
わかっていたけれど


藁にも縋る思いというか
そんなことまで考えてしまうほど
この現実を受け止めきれなかった。


この現実が
「夢」であってほしいと
真剣に思ってしまった。



そして僕は
母のおでこにキスをした。


「はつみ何でだよ…いつもなら"気持ち悪い"って嫌がるじゃん…」



「起きてよ…はつみ…」



「こんな形で帰ってくるの嫌だよ俺…」



「せっかくはつみの大事さがわかったのに…」



すると唐突に襖があいた。


振り返ると
相手は父だった。


僕が母の部屋にこもる前
父は缶ビールを数本飲んでいた。


いつもなら酔っているのに
この時は酔っていなかった。


というか今にして思えば
酔えなかったのだと思う。


僕は泣いているのを隠そうと
無言になったものの
泣いた後がバレバレだったのだと思う。



父は



「母ちゃんが家で過ごせるのは今日が最後だ。必ず今ここにいるから好きなだけ母ちゃんの前で泣いてあげな」


というと襖を閉めた。


僕は父のその言葉を聞いて
顔をくしゃくしゃにして
泣きながら



「うん…」


と答えた。


そしてまた
母の前で泣いた。


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生きててくれて

僕らが病室に着いた頃には
母は意識が戻っていて
落ち着いていた。


僕は母の姿を見ると安堵して
緊張の糸がほどけ目が真っ赤になった。


母はまず父と兄と話をした。
僕はその間、母に背を向け
母から見えない位置に立ち
何回も深呼吸をして
気持ちを落ち着かせようとした。


すると母が
「ゆうじもこっちへ来て」と
弱々しい声で
僕を呼んだ。


僕はその母の声を聞いて
込み上げてくるものがあり
涙を貯めながらも
母の元に向かった。


母も目に涙を貯めていた。
僕は両膝をついて
ベットで寝ている母の右手を
両手で力強く握りしめた。


母もまた僕の手を
今持てる力を振り絞って
ギュッと握り返してくれた。


母の手の温もり、
母の声


母がまだ生きていることを
実感できて、心の底からホッとした。



すると母は
申し訳なさそうに
僕の方に目を向けて


「ごめんね…心配かけて…」


「ううん…大丈夫だよ…」


「いつもゆうじが来るとすぐ母ちゃん体がおかしくなって本当にごめんね…」


僕はその言葉を聞いて
涙がドッと溢れた。


僕は両手で握りしめた母の手を
自分のおでこに何回もポンポンと当てて
泣き続けた。


そして母の顔を見て
むせび泣きながら


「生きててくれて本当によかった……」


と心の底から思っている事を伝えた。


母は


「こんなに心配してくれてるんだ、まだ母ちゃんは死ねないよ」


と言って笑って励ましてくれた。


その顔を見て
僕はさらに泣いた。


そして先生が言った通り
腹水を抜いたこの日から
母の体は日に日に弱っていった…


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プロフィール

ゆうじ

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