事実上、母が死を認めた事
諦めた事、負けを認めた事は
僕にとって凄くショックだった。



翌日僕ら3人は母に言われた通り
AOKIに礼服を買いに行った。


礼服と言っても、実際は
間もなく訪れる母の
通夜、告別式で着るための喪服だ。


父が運転する車で
AOKIで礼服を買った後
僕だけ病院の前で降ろしてもらい
父と兄は一旦家に帰った。


この日は家族3人休み。
交代交代で母のお見舞いをしようということになった。


僕は母に会うと、
昨日の事がショックだった為か
自分からは口を開かなかった。


椅子に腰かけ、
ボーっと母の右手を見つめた。


すると母が笑顔で
「AOKIに行ってきた?」
と聞いてきた。


僕は「うん。」とだけ答えて
また下を向いた。


母に対して怒っているわけではない。
一種の放心状態というか
そばにいたいとは思うものの
言葉が出てこなかった。


母はそんな僕を心配してくれて


「昨日はごめんね。母ちゃんまたゆうじを傷つけちゃったね」


と声をかけてくれた。





僕は予想だにしなかった
母の言葉に驚き


「え?」


と答えると


母は僕の目を見つめ


「母ちゃんのことを嫌いにならないでね」


と不安そうな顔で言ってきた。


僕はその言葉を聞いて
一気に涙が溢れ、
下を向きながら


「なるわけねーだろ…。おれはつみのことが大好きなんだから…」



さらにしゃくり泣きながら


「大好きだから…おれ…はつみと…まだまだ…一緒にいたいよ…。」


とまたも懇願した。


そしてそのまま下を向いて
震えながら泣き続けた。



すると母は


「ありがとう^^」


とホッとした様子で
さらに続けて



「ゆうじ、前に教えてくれた好きな言葉をもう一回教えて」


僕は泣いているため
顔をくしゃくしゃにしながら
母を見つめ


「え?なんのこと?わからないよ」


と答えると



母は笑顔で



「どうして目は  ってやつ」



僕は母のその言葉で
母が何の事を言っているのか気がつき


母の真意がわかり
改めて下を向いて泣いた。


そしてしゃくり泣きながら
顔を上げて母を見つめ
一言一言を大事にゆっくりと



「どうして目は前についていると思う?」



言葉に詰まる僕。
母はニコニコしながら僕を見ている。



「別に耳の位置でも、首の後ろでもいいんだ」



「でも目は…この位置にある…」



「それはね、前を…」



この時点で僕はもう号泣して
言葉がしゃべれない。


でも母の為にも
そして今の自分にも、
心に響く言葉だから
続けなければと


意を決して
少し落ち着いた後に
続けて


「それはね、前を向くためだ。下を向くためではなく、前を向くために目をこの位置にあるんだ…」


僕はそう言い切った後、
思わず母の右手を握りしめ
泣き崩れた。


そして少し時間が立ち
顔を上げると母は


「ゆうじありがとうね^^ この先のゆうじの人生、一杯傷つくことがあると思う。」


「でも下を向くんじゃなくて、前を見て歩いていってね^^」


「母ちゃんずっとそばにいるから^^」



僕は母の言葉を聞いて
声を出して泣いた。


以前の僕なら


「何言っているんだよ。死ぬと決まったわけではないのに」


などと、はぐらかしたり、
気休めの言葉をかけたりしていたが


この時の僕は母の言葉を素直に聞けた。




もう本当に母が死ぬことを認めて
死んだ後の事を考えて
僕にエールをくれて
遺言のような言葉を
母の口から直接聞けて、


時間が立てば立つほど
生前の母からこんな素敵な言葉をもらえて
本当に僕は幸せだと感じる。



だから僕はどんなに嫌な事があっても
前を向いて歩いて行ける。
それは『母から託された想い』でもあるから。


仕事やプライベートで嫌な事があって
落ち込んだりした時、道を歩いていると
つい下を見て歩いてしまうことがあるけれど


未だにちょっと下を向いて歩いただけで


(そうだ!前を見て歩かなければ!)


と心の支えとなっている。



この言葉はたしかドラえもんの中で
出てきた言葉で少しアレンジをして
母が元気な頃に、言った言葉。


何気ない時に言った
僕の言葉を覚えていてくれた事が
とても嬉しかったのを覚えている。


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