タクシーに乗り込み
時間にして10分ぐらいで
病院に着いた。


父から財布を渡され
支払いを済ませて
先に僕はタクシーから降りた。


父はゆっくり、ゆっくり
座ったままお尻を滑らせ
開いているドア側まで来た。


僕は父に右腕を差し出した。
父は僕の右腕を強く握り
タクシーから降りた。


僕はとっさに父に「大丈夫?」と声をかけると
父は振り絞るように
元気のない声で
「大丈夫だよ」
と答えてくれた。


僕はその後も父に手を貸そうとしたが
父は自分で歩くと言って僕のサポートを拒んだ。


家の最寄り駅のタクシー乗り場からタクシーに乗り
車内にいた時とタクシーから降りて
病院の出入口までのわずかな距離を
父の後ろについてゆっくりと歩いている時は
父の事で頭が一杯だった。


しかし自動ドアの扉が開き
病院に足を踏み入れると…。


大勢の患者さんやその家族で混雑しているロビー、
正面に見えるエスカレーター、
右奥見えるお花屋さん。
そして病院の独特の匂い。


当たり前だがあの当時と
何ら変わらない景色がそこにはあった。


僕は軽くパニックになった。
動悸がして、一瞬で
心の中が「恐怖」で染まった。


だがすぐに僕は
父と一緒に今日の診察に向けた
手続きを行うことで
気分を紛らわす事ができた。


紹介状を貰っていた上に
事前にどこに行けば良いのか
父は把握していたようで
ロビーでの手続きを済ませると
父は2階に行くぞと
僕に言った。


そしていざ2階へと向かおうと
視線を移すと
目の前にある通路と
その脇にある椅子が目に入った。


その通路と椅子を目にした瞬間、
8年前の光景が
一気に
フラッシュバックした。



まだ母が入院したての頃
この奥の通路から
レントゲンを撮り終えて
看護師さんに押されながら
車椅子に乗った母が
僕と目が合うなり
満面の笑顔でピースをしてくれた。


そんな母の姿を思い出して
目が真っ赤になった。


そして辛くて怖くて
母の病室から逃げ出し
何度も何度も
この椅子に座って泣いた
あの当時の自分を思い出して
胸が締め付けられるような気持ちになった。


この病院は母の時に
お世話になった病院だ。


母が亡くなってから
手続きに来た7年前を最後に一度も訪れなった、
むしろできる事なら今後二度と
足を踏み入れたくもなかった場所だった。


ここには母と過ごした最期の1ヶ月の
辛い思い出、悲しい思い出しかない…。


いわば僕にとって
この病院はトラウマな場所だ。


母の命を奪った、
まではいかないが


母の命が尽きた
僕にとっては憎い場所だった。


やり場のない怒りを
僕はずっとこの病院に向けていた。


そんなトラウマな場所に
また来ることになってしまった。


今度は父が危ないかもしれない…。
でも今度は絶対にここで父を死なせない。


僕はそう力強く
自分に対して決意表明をして
自分を奮い立たせた。


そしてここから
長い一日が始まる。


僕はこの後何度も
涙を流すこととなる…。




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