2016年2月3日。
いよいよ父と一緒に
病院に行く日になった。


緊張しているせいか
この日は起きた時から
はっきりと目が覚めた。


当時家に居た父は
僕の目には元気な頃と
何も変わらない姿だった。


そして心の中で



(きっと大丈夫!はつみが守ってくれる)


と何の根拠も確信もないにもかかわらず
僕はそう自分に言い聞かせて
平静を装った。


父に確認して
タクシーで行くとなり
家から徒歩5分ぐらいの駅の
タクシー乗り場まで
歩いて行くことになった。


父も入院を覚悟していたのだろう。
兄の送りは引き続きやっていたので
運転する元気と気力はあるが
自家用車で病院に行くとは言わなかった。


もちろん父がそんな事を言ったら
僕は全力で止めるつもりだったが。


僕はカバンの中に
いつものように
母の遺影を入れた。


不安な時、傍にいて欲しくて
母に一緒に来てもらう事にした。


そしていよいよ家を出る。
玄関で先に靴を履き始めようとする父。


僕は靴ベラを父に渡し
父の背中を見つめた。


そして背中越しに


(これが信ちゃんの最後の家から出かける姿かもしれない)


と目に焼け付けようとしたが
同時に目が真っ赤になってしまった。


父はフゥーと息を吐きながら
ゆっくりと靴を履き終わった。


そして外に出て門を出て
一緒に歩き始める。


僕は父の後ろを歩く。


そこに会話はない。


前を歩いている父の歩くスピードは
遅いと思わなった。


普段に比べれると
多少遅いかなと思ったが
歩く姿を見てもそこまで
元気な時と変わらないと感じて
ここでも僕は安心していた。


ちょうど家と駅のタクシー乗り場までの
中間地点にはお寺がある。


そこには
母が眠る墓がある。


僕はお寺の脇を父と歩いていると
母のお墓の方向に向かって
心の中で懇願した。



(はつみお願い!!信ちゃんを守って!!)



僕はそう心の中で母に願うと
目を真っ赤にした。


だがそんな僕の願いも
ほんの一瞬であっけなく
打ち砕かれた。


母のお墓の方向から
前を歩く父の方に目をやると
すぐに父の足が止まった。


僕は激しく動揺した。



とりあえず道の端を歩いていたが
僕は父を壁側に立たせ
僕は車道側に立ち
僕より身長の低い父の為に
少しだけひざを曲げて
父に左腕を貸した。


父は右手で僕の左腕に手をかけた。
父の力で僕はさらにぐっと力を入れて
その場に立ち、
目を真っ赤にしたまま
父に目を向けた。



父の呼吸が荒い。


「ハァハァハァ…」


これが信ちゃんの言っていた

自覚症状か…。


僕はそんな父の姿を見て
必死に声を殺しながらも
涙が止まらなかった。


父に泣いている事を悟られないように
顔をくしゃくしゃにして
父とは反対側の右斜め下に
視線を落としながら泣いた。



そして自分を責めた。


(俺はまた同じ事を…なんでこんなに近くにいたのに…)



(はつみの時の経験を全く生かしていないじゃないか)



(信ちゃんごめん…本当にごめん…)



(こんなに近くに居ながら俺は信ちゃんの異変に気付いてあげられなかった)


母が亡くなった時の経験から
父に何か少しでも異変があったら
すぐに病院で検査してもらい
病気が見つかる時には手遅れな状態ではなく
初期段階で済むように
父の事をはつみの分まで
俺がしっかりと守る!
と心に誓ったのに
また同じ過ちを犯してしまったと
混乱したのを覚えている。



目の前で苦しんでいる父にかける言葉もなければ
これから始まるであろう途方もない恐怖と不安に
押しつぶされそうでただただ父が再び歩き出すのを
隣で泣きながら見守る事しかできなかった…。




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