僕の家のすぐ目の前には
畑がある。


母方の祖父は地主だった。
子供の頃は毎日のように庭や畑で
いとこや兄と遊んでいた。


だが僕達が子供が大きくなるにつれ
子供の時遊んでいた畑にアパートが1棟、
そしてまた1棟と新たに建った。


だが家の前の畑だけは
アパートは建たず畑のままだった。



今現在そこには自転車置き場の物置と
叔父が買ってくれた物置が置かれている。


ちょうど最後の1棟は
母が闘病中に建設が始まった。


その後母が亡くなって
しばらくすると完成した。


したがって生前の母は叔父から
ここにアパートを建設する事を聞かされていた。


以前は別の位置に物置を置いていた。
しかしアパートの駐車場を作る事となり
母と叔父の話し合いの結果、
物置を今の位置にずらす事になったと
生前の母からは聞かされていた。


僕は母の言葉を信じて
目の前の畑に対して
特に何の疑問も持っていなかった。


そしてこの日の夜
父から父の結婚当時の苦労話を聞いた僕。


この日の父はよくしゃべった。
そして父はさらに話を続けた。


僕の家のすぐ近くには
歩いて30秒程度で学校がある。
兄と僕の母校だ。


しかし校門の目の前には
おじいちゃんが建てたアパートがある。


酔っぱらった父は
アパートがある方向を指差し


「この家を建てる時におじいちゃんからそこのアパートが建っている土地に家を建てても良いと言われたんだ。」


僕は父の話に引き込まれ
興味津々で耳を傾けた。


「でも母ちゃんは『校門の目の前に家を建てるのは嫌だ』とおじいちゃんに断ってここに建てたんだ。」


と当時を懐かしむように
穏やかな表情で話してくれた。


酔っぱらて気分が良いとはいえ
父がこんな話をしてくれるのが嬉しくて


「たしかにそれは正解だね(笑)玄関開けて目の前に校門は嫌だね(笑)」


と笑って父に返答した。



すると父はこう続けた。


「今そこに物置が置いてあるだろ?そこはな将来おまえの土地になるんだ」


と父は得意そうな顔で
僕の目を見て話してきた。


僕は寝耳に水というか父から予想だにしていない話を聞いて
言葉が出てこなかった。


そして自分でもわかるほど
先ほどの笑顔から一変して
困った表情を浮かべた。


すると父は話を続けた。



「おまえと兄ちゃんが結婚したらこの家は兄ちゃんが住むことになる。そうするとおまえは出ていかなければいけない。」



僕は父の目を見て
真剣に聞いた。



「だから母ちゃんは『ゆうじが将来かわいそうだから』って叔父ちゃんに相談してそこの土地をおまえのために取っておいてもらったんだ。だからそこにはアパートが建っていないだろ?」


と父は言った。



僕は父からの話を聞いて
体中が震えた。


そして数年ぶりに父の前で
大粒の涙を流した。


泣かないように鼻を摘み
むせび泣きながら。


言葉なんて出てこない。
生前の母の僕に対しての
言葉では表せられないほどの
深い愛情を知り、本当に僕の事を
大切に大事に考えてくれていた事が
嬉しくて。


そしてとてつもなく母に会いたくなり
恋しくなって涙が止まらなかった。


(ありがとう…はつみ…本当にありがとう…)


と。



そして父の前でどのくらい泣いただろうか。
しばらく泣き続けた記憶がある。



そこに会話なんて必要ない。
母からの深い愛情を噛み締めて
僕はひたすら泣き続けた。


そしてようやく少しだけ落ち着いて
顔をくしゃくしゃにしながらも
父のほうに目を向けると
僕の泣いている姿と当時の母とのやり取りを思い出したのか、
父の目は真っ赤になっていた。



改めて母の愛情を感じられた
夜だった。






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