2009年11月9日。
この日は母が亡くなって
初めて迎えた僕の誕生日であった。


僕はこの日、免許の更新に
行くことにしていた。


免許を所得して初めての免許更新。
勝手もわからず気疲れもして
帰って来てしばらくリビングでグターっとした。


そして夕方になり
2人が帰ってくる前に
浴槽にお湯を張らなければと
浴室に入ると…



浴室の床が
濡れていた。


まさか浴槽の床が濡れているとは思わず

靴下のまま入ってしまい
靴下が濡れて冷たくて気持ち悪い感覚になり

やり場のない怒りが込み上げてきた。


「なんだよ濡れているのかよ!」


僕は咄嗟に朝2人のどちらかが
朝風呂かシャワーを浴びて行ったんだなと
考えた。


ただその怒りも一瞬で、

自分の中である疑問が生まれた。


我が家では朝風呂や朝に
シャワーを浴びる人はいない。


ましてやこんな11月の寒い朝に
わざわざ入るとは思えない。


しかもシャワーを浴びたとしても
いくら何でもこの時間になれば
床は乾いているだろう。


咄嗟に「まさか泥棒?」とも考えたが
家に帰ってから他に異変も感じなかったし
荒らされた形跡もない。


念の為、お金や通帳や
他の部屋の戸締りも確認したが
何の異常もなった。


でも現に床が濡れている。

「まあどちらかが入っていたんだろう」と
都合よく考えるようにした。





そして夜になると
父と兄が帰って来た。


うちの家族は口下手の為
毎年恒例で僕は自分から



「おかえり!今日は何の日だい?」


と「誕生日おめでとう」を強要していた。



そしていつもの恒例行事も終わり
2人が風呂を出た後
いつものように洗濯機を回した。


この当時は毎日
洗濯機を回していた。


そして1階で父と兄が食事をしている間に
僕は2階で洗濯物を干した。



先程も言ったがこの当時は
毎日洗濯機を回していた。


そしてバスタオルも
1人1枚の計3枚を
毎日夜に洗濯して
次の日の夕方に乾いたら
洗濯機の上の竿に引っ掛けていた。
お風呂から出た人はそれを使う。


つまり決まったバスタオル3枚を
ローテーションで回して使っていた。


そして洗濯物を干していると
僕は先程の異変を思い出した。


というのもこれから干そうとする洗濯カゴの中に
目視で確認するとバスタオルが
いつもより1枚多い計4枚あったからだ。


僕はすぐに
2人に確認も含めて1階に駆け下りた。


僕がドタドタと音を立て階段を下りてきたため
リビングのドアを開けると2人とも
何事かと僕の顔を見ていた。


僕は怒り気味に


「今日どっちかシャワーか風呂入ったでしょ?」


すると2人とも即答で


「入っていないよ」


「こんな寒い時期にわざわざ仕事行く前に入るか(笑)」


と2人とも嘘を付いている感じではなかった。


僕は2人から予想していなかった答えをされ
少し混乱しながらも


「でも洗濯物干していたらバスタオル4枚入っていたんだよね」


と2人に聞いた。


2人は特に疑問に思わず
何かの拍子で1枚多めに入ったのではないか?
程度にしか思っていなかった。


僕は2人のそんな態度に流されたのもあり
トーンダウンしてバスタオルを干しに2階へと戻り
カゴの上から目視で確認するとやはり4枚あるように見えた。


最初の2枚を干して
残りの2枚に目をやると
僕はドキッとした。


一番下のバスタオルは
母が生前使っていたバスタオルだったのだ。


僕はその瞬間、
あらゆる疑問が一気に解けた。


そして大粒の涙が溢れた。



「はつみが…はつみが帰って来てくれたんだ…」



「おれの誕生日に…」



「そばに居るよ…って…」


そして自分の中で出た「真実」を「確信」にしようと
顔をクシャクシャにしながら
洗濯物の下着と靴下の数を数えると
それぞれ3枚と両足合わせて3足があった。



「間違いない2人は朝風呂に入っていない!」



「はつみが誕生日に帰って来てくれたんだ…」



父と兄に言ったところで
2人は信じてくれないだろうなと思い


嬉しさと母が恋しくなり
2階の洗濯物を干す部屋で
声を殺しながら泣き続けた。


結局あの日なぜ浴室の床が濡れていたのかはわからない。
でも僕は母が僕の誕生日に帰って来てくれたのだと信じている。





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