混乱したまま案内された部屋に入ると
そこは暗闇に近い部屋だった。


しかし僕はすぐに不信感を抱いた。
それはいつもの主治医の先生ではなく
初対面の先生だったことに。


(だれだこの先生は…)


僕は余計に混乱した。
とりあえず一例をして
椅子に腰を掛けた。


すると僕の困惑した表情を見てか
その先生はしゃべり始めた。


いつもの主治医の先生は
緊急の手術が入り、
その手術を行っているので
代わりに自分が説明する。


昨日起きた一連の様子は
主治医から聞いている。


僕はその話を聞きながら
これから話される本題が
気になって、
集中できていなかった。


そしてようやく本題へと入る。
急に先生の顔が曇る…。


その表情を見て
僕の不安と緊張は頂点に達した。


そして先生が口を開いた。
僕の目をじっと見て





「お母様の脳には酸素が行きにくい状態です。」





「高山病のような症状になっています。」





「いつ亡くなってもおかしくない状態で、それが明日かもしれないですし、明後日かもしれません。」





「もっと言えば次に眠ったらそのまま…かもしれません…。」





あまりにも僕の予想を遥かに超える、
そして突然告げられた、


「もう今日亡くなるかもしれない」という
先生からの説明に


ショックが大きすぎて
涙が出ることもなく、
一瞬だけ放心状態に陥った…。


(もうそんな状態にまで来てしまったのか…)


(次に眠ったら最後って…)


たしかに昨日、腹水が貯まり
死ぬかもしれないとは思ったけれど


昨日の夜からも、
そしてさっきも
普通に会話ができていたし、


入院した段階からもう手遅れで
抗がん剤を使えるような状態ではなく、
投与できなかったこともあり、
入院前と変わらず、髪はフサフサ。


腹痛を訴えた約1ヶ月前から
全くと言っていいほど
何も食べれられない状態だったとはいえ、


元気だった頃と比べ、体形も少しだけ
痩せた程度で、
死ぬ直前の状態だとは感じられずにいた。


昨日の腹水で
「覚悟をそろそろしなければいけないのか…」
と考えてはいたけれど、心のどこかで
「まだその時まで時間はあるはずだ」だと
勝手に信じていたのに…。


そしてこの時ひとつだけ許せなかったのが、
この先生はこの説明中、ずっと少し笑いながら
説明をしてきた。


正しくは顔が引きつって笑っているように見えた。
よくニュースなどで目撃者として
インタビューに応じている人が
重大な事故を目撃したにもかかわらず
笑っているように見える。
まさにそれと同じだった。


でも当時の僕には
そんな表情をして
説明をしてくる先生を
許せるだけの心の余裕はない。


その表情が許せず、
ずっとその先生を睨んでしまった。


そして早くこの場から去りたい
ただそればかりを考え
話が終わるや否や
早々とその部屋から出た。


(主治医の先生から説明してほしかった)


(あの顔は絶対に忘れない!)



この時の僕は
先生たちを憎むことで


突然突き付けられた
受け止めようがないこの現実から
逃げようとしていた。


先生を憎む怒りの気持ちで
このとてつもない悲しい宣告から
逃げようとしていたのだ…。


そして気持ちは母に何と言って
ごまかそうかということ…。


答えは出なかったが
僕は母の待つ病室へと向かう。






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