母が病棟に響き渡る悲鳴を上げてから
数時間が立った。


その頃には僕ら兄弟は
病棟のロビーで待機をしていた。


生きた心地がしないとは
まさにこういうことを言うのだと思う。


僕はこの時、本当に母が
このまま死んでしまうのでないか
と思っていた。


もっと言えば7割は諦めていた…。
それが正直な気持ちだった。


自分で勝手に悪い方へ悪い方へと
考えてしまい、考える度に恐怖や悲しみで
涙が止まらなかった。


自分で自分を追い込んでしまっていた。
そしてそうこうしているうちに
仕事を早退して来た父が
エレベーターから降りて来た。


どうやら兄が連絡をしたらしい。
こういう時、不思議なもので
言葉を交わしたり、
父から励まされたりしなくても
父の顔を見るだけで、
泣いているのに心がホッとした。


置かれている状況に変わりはないのに
家族全員揃って、
家族が一致団結をして
この目の前の最悪な状況に
全員が同じ方向を向いて、
同じ想いでいれたことが
僕の消えかかった想いを
奮い立たせてくれた。


この後も少しだけ、
祈る時間が続いたそんな折、
ロビーに先生が現れた。


そして家族全員が揃っていたので
全員で小さな部屋に通された。


先生から今日の原因と今後について
説明を受けた。


先生は終始、
神妙な顔で


「癌の影響で腹水が貯まり、それによって息切れなどが起こりました」


「今は落ち着いて眠っています。」


「しかし腹水を抜いたことで、奥様の体は今後ますます弱っていくだろうと考えられます…」


「こんな事を言うのは御家族にとって酷ではありますが、
 奥様と一緒に過ごせる時間はもうあまり残されていないと…お考え下さい…」



先生からの説明を受けて僕は


「母が生き延びたことに安堵した」


ホッとした気持ちと


先生の口からはっきりと告げられた


‘別れの時間が近い”という
‘もうこれは避けられない現実"へと
向かってしまっているのだと
ショックを受け


あらゆる感情に襲われ
しだいに激しい恐怖に変わり
目の前が真っ暗になった。


しかしそんな心境でも
僕の体を突き動かしてくれる"想い"があった。


そうそれは


「母の顔が見たい」


「母のそばにいたい」


という想い。


例え寝ていても良い。


母の声を聞けなくても良い。


寝ていたとしても
母のそばにいるだけで
泣くことしかできないのは
わかっているけれど


母を感じられるだけで
この張り裂けそうな
胸の痛みは治まる気がした



母の存在が
僕にとって何よりも良薬だった。


先生の話が終わり
寝ている母が待つ病室へと
僕ら家族は向かった。






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